20代の前半に、某主教団体に伝道された50代の主婦。そこで体験した、摩訶不思議な内容を多くの人に伝えたくて体験記を書く。詐欺にあう人が、あとを絶たない世のなかで、被害者が少しでも減ることを、世界の片隅から願っている。
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詐欺され、詐欺することになった私のエピソード1.クラスメイトの勧誘
私は20才のころ、某宗教団体に所属していました。
きっかけは、知り合いからの、しつこい勧誘でした。
それはある日、かかってきた電話からはじまったのです。
学生時代に同じクラスだったというだけで、特別親しくもなかった人でした。
「会いたい」というのを、断る理由がなかった私は、なんの警戒心もなく会いに行ったのです。
ただ会って、話をするだけのことだと思っていた私が、連れていかれたのは宝石の展示会でした。
なんの前振りもなく宝石と言われても、貴金属に関心のなかった私には、買いたいものなどあるはずがありません。
しかし、ひさしぶりにあった友人の、熱心なようすに根負けして、真珠のイヤリングを買いました。
そして、別れました。
その彼女から、後日、また電話がありました。
今度は、違う話だと言うのです。
なにやら狭い部屋にとおされて、名前を鑑定することに。
「あなたは先祖の罪が重いので、印鑑をつくれば運勢がよくなる」と説得され、21万円で印鑑を三本買いました。
さらには、「もっと霊感のある先生がいるので、その先生に会わせる」と、言われたのです。
すっかり、自分の将来が暗いものだと言われて、恐怖を感じた私は、その先生に会うことにしました。
詐欺され、詐欺することになった私のエピソード2.あやしい先生を紹介される
その先生は、ごく普通の男性でした。
とても、霊感があるようには見えません。
その先生は、私の背後には、他界していたおばあさんが付いていると言うのです。
母は生みの親を3才で失くしていて、そのおばあさんが母のことを心配していると言いました。
あとで知りましたが、その情報は、すでに向こう側に流れていたものでした。
先生の神妙な面持ちは、小心者の私には十分に恐怖を与えました。
そして、私に出家することをすすめるのです。
いきなり出家と言われても、イメージがわかない私。
とりあえず、「出家は無理だ」と、言いました。
すると、「出家が無理なら、これを購入するといい」と、言われました。
それはまたしても、高額な商品で、大理石でつくられた壺です。
原価がどのくらいなのか、そんなことを考える余裕もないです。
そんなところに、自分の将来や先祖のことが解決する物だと信じてしまい、壺を買うことにしました。
値段は、70万円。
印鑑と壺で、すでに100万円近い出費です。
持っていた貯金は、ほとんどなくなりました。
お金はなくなっても、その代わりに心の安心を得たのです。
それが霊感商法だとわかっても、神体験をした気になっていたため、関係ありませんでした。
詐欺され、詐欺することになった私のエピソード3.友人からの誘いが続き、信者へ
そして、4か月たったころ、また友人が電話をかけてきました。
今度は、また違うところに行こうと言うのです。
すっかりお金がなくなった私は、もうどこにも行きたくありませんでした。
印鑑と壺で、もういいと思っていたのです。
しかし、友人はまったく引き下がりません。
しつこく、くい下がってきました。
なかばあきれながらも、行くことになり、一緒にあるマンションの一室に行きました。
それは普通の家でしたが、なん人もの人がビデオを見る場所になっています。
迎えてくれた女性は、物腰が柔らかく、親身になって私の話を聞いてくれました。
友人もそうでしたが、自分に関心を持ってくれる人がいなかった私には、その雰囲気がすっかり気に入ったのです。
次の予約も入れ、言われたとおりにビデオを見て、その感想などを話しながら親睦を深めていきました。
そして、そのビデオを一とおり見たあと、「泊まりで、修練会をするから参加したらどう」と、言われました。
泊まりと聞いて、どうしたものかと思いましたが、仕事を辞めていた私には、時間がありました。
人を疑うことのない私は、3日間の修練会に参加したのです。
参加した人たちはみな、自分と同じような若い人たちで、和気あいあいとした雰囲気でした。
最後の日、あるビデオを見せられました。
それは、ある人物が世のなかを救うためにこの世に生まれて、幅広く人類救済のために働いているというのです。
世のなかに生きながら、深い絶望を感じていた私には、それがクモの糸を下したお釈迦様のように思えました。
私もこの絶望から救われるのか、世のなかもこの人たちの運動によって、救われていくのかと感動したのです。
しかし、のちに、そこが某宗教団体だと知ることになります。
それまでは、草の根運動で自然発症した団体と聞いていました。
今思えば、そんなはずがないとわかります。
しかし、すでになにを言われようと、そこを貫く一信者になっていました。
詐欺され、詐欺することになった私のエピソード4.10年のひどすぎる生活
それから、この団体で結婚するまで、10年ほどをすごすことになります。
結婚のためにも、献金が140万円必要でした。
その10年間、地上天国をつくるための協力として、いろいろなことをしました。
母に宝石を買ってあげたり、妹に着物を買わせたり、かつての同級生になにかを買わせたりしたり。
町中に出たり、アパートを訪問してアンケートを取ったり、この美しい運動を広めようと必死になってやりました。
私と同じように、伝道されてきた人たちは皆、純粋でお人よし、人の言うことに素直に従う善良な人たちばかりでした。
間違っても、人に悪いことをするような人たちではありません。
しかし、それが裏目に出て、結局はだまされてお金をむしり取られていくことになったのです。
新しい人を連れてきてはお金を出させ、お金がなくなるとポイ捨てされました。
「なにかがおかしい」と、うすうす感じていても、意味があるのだと考えるように教育されて、考えることを封印されていた信者たち。
考える力のある人や、家族が反対して来なくなった人たちから、だんだんといなくなっていきました。
この道が真理だと信じた若者は、職を捨てて献身という、身をささげる活動に専念しました。
それは朝から晩まで働き、小遣いは1か月で1万円、無保険、無年金の奴隷のような生活だったようです。
なかには、体を壊して辞めていく人たちも多かったと聞きます。
私は勤労青年として、むしろ献身した人より、劣るという位置にありました。
そこでは、人と絶えず比較されながら、劣等感の強かった人たちが優越感に浸れる、そんな場所でもありました。
かよいながらも、常に劣等感に悩まされ、しばらく休んでいた時期もありました。
教義でいう、血統転換を信じていた私は、結婚するまで我慢して所属することになります。
詐欺され、詐欺することになった私のエピソード5.団体から抜けてからの差別と孤独
「自分が選んだ道が、正しくなかった」と、わかったときの衝撃は、とても言葉で言いあらわすことができません。
すでに家族がいて、帰る道も閉ざされた状態で、元に戻ることなど不可能なことです。
戻っても、私を知る人は私を避けるでしょう。
一度貼られたレッテルは、はがせないのです。
海外に来てしまった私は、親のお葬式には参列しますが、兄弟やほかの親戚が亡くなっても参列できません。
私が行けば、親戚も反対の立場で来てもらうことになるからです。
そんな負担は、かけられません。
数か月前に、遺言書を簡単に書きましたが、そこにはこう書きました。
私が亡くなっても、親戚を呼ばなくてもいいと。
気持ちだけで十分だと。
某宗教団体に所属してしまったことで、たくさんのお金や信用、家族、親戚との縁もほとんど切れました。
自分の主張をとおした結果は、国外での孤立です。
失なったものが大きくて、なかなかそれを認めるにも時間がかかりました。
真実が見えてきたとき、自分の全人生を否定されるような衝撃に耐えるには、多くの時間とリハビリが必要です。
怒りや後悔の念は、半端ではありません。
自分が被害者であり、加害者でもあることを知ると、どうやってつぐなっていったらいいのかと、押しつぶされそうな思いになります。
まとめ
詐欺に引っかからないという、自信のある人ほど引っかかりやすいもの。
私も、体験者として言えます。
日本人は、丁寧な物腰の人が多いですから、詐欺なのか判断することがむずしいことが多いです。
親身になってくれる人には、警戒心が薄くなってしまいます。
親しくなっても、お金を請求しない人なら、普通に友人としてすごせますが、お金を請求するようなら縁を切るべき。
私の人生で学んだ、痛い教訓です。