33歳、女性。結婚後は専業主婦。
学生時代も、卒業後も、サービス業のアルバイトを数々経験。
バイト仲間にも、お客さんにも、ときどき好みのイケメンはいたが、コミュ障のため、できるだけ会話を避けていた。
趣味は読書。
現実逃避できるファンタジー小説が好きです。
見出し
イケメンなのに地味な男のエピソード1.飲み会に出席はするのにほぼ喋らない
昔のバイト先で先輩にあたる男性が、とってもイケメンな男性でした。
少し長めでさらさらの茶髪は、かきあげれば光を反射しそうなほど美しく、涼しげな目もとに低めの甘い声、180cmの高い身長。
容姿だけみれば、「芸能活動をしている」と言われても、信じられるような様子の人だったんです。
年は20代前半で、当時はフリーター。
とっくに大学は卒業している年なのに、平日はほぼ毎日バイトをしている彼の存在は、とても不思議でした。
だけど私は勝手に、「なにか素敵な夢を追いかけているから、定職に就かないんだろうな」と思っていたんです。
それくらい見た目に、謎のオーラがある男性でした。
この先輩Aさんがシフトに入っているのは、基本的には日中。
サービス業だったので、その時間帯のほかのバイトさんといえば、パートの主婦がほとんどです。
だけど彼は、夕方からシフトに入っている学生たちからもよく、飲み会に誘われていました。
「誘われれば、断らない人」だというのはほかの人からも言われていて、私も「Aさんは飲み会が好きなんだな」と思っていたんです。
私はあまりバイト先の集まりには参加したくないほうだったので、そのときはAさんと同じ場で飲んだことはありませんでした。
だけどある日、新しく入ってきたバイトの子の歓迎会をすることになり、私も久しぶりに飲み会に参加。
そしてたまたま、Aさんの隣に座ることになったんです。
私はあまりおしゃべりが得意なほうではないので、かなり緊張していました。
だけど、イケメンなAさんのこと。
「きっと女性の扱いにも慣れていて、うまい具合に話しかけてくれるんじゃないか」と期待していました。
「イケメンで、飲み会好き」となれば、「盛りあげ上手に違いない」と思ったんです。
ところが、Aさんは、歓迎会開始と同時に赤ワインを一杯注文。
みんなで乾杯をしたあとは、一人静かにそこにたたずんでいるだけでした。
話しかければ、一言二言は話します。
だけど、決して自分から話題を提供することはなく、なにを食べるわけでもありません。
ただじっと周りの様子を見つめながら、ひとり赤ワインを傾けているだけなんです。
みんながビールを飲んでいるなかで、ひとりだけ赤ワインというのも衝撃でしたし、どれだけ周りが盛りあがろうとも、輪のなかに入ろうとしないのも意外。
おまけに、バイト仲間がみんなAさんをまるで、空気のように扱っていることも驚きでした。
「あっ、Aさんってイメージとはぜんぜん違う、地味な人なんだな!」と、私はそこではじめて気づいたんです。
イケメンなのに地味な男のエピソード2.バンドを組んでいるけれどポジションはマネージャー
私のAさんのイメージが、そのイケメンぶりを生かした、モテ系チャラ男になっていた原因。
それは、彼が「バンド活動をしている」と聞いていたことにもありました。
音楽に詳しくない私が、聞いたこともないようなロックバンドのコピーバンドをしているということを聞いた私。
「たしかに、Aさんの容姿なら、そういう活動も似合うな!」と思っていたんです。
Aさんと親しいバイト仲間が、ときどき「彼のバンドのライブに行った」という話をしていたこともありました。
それに、彼自身がライブのチケットを売ろうとしているのも、見たことがあります。
私が見た限りでは、かなり精力的に活動しているようでした。
ある日Aさんとバイト先の休憩室で、二人きりになってしまったときのことです。
話題に困った私は、Aさんのバンドについて、聞いてみることにしました。
最初はコピーもとのバンドや、バンドメンバーに関することなどを尋ねていたのですが、ふと気になったことがあり、質問してみたのです。
「Aさんって楽器ができるんですね? あ、ボーカルだけなんですか?」
そうです、Aさんがバンドをやっていることは知っていても、ライブなどに行ったことのなかった私。
なので、彼がどのポジションなのかさえ、聞いたことがなかったんです。
ところが、Aさんから返ってきたのは、「いや、俺はマネージャーだから」という言葉。
一瞬、耳を疑いました。
「え、ロックバンドですよね? ドラムとかベースとかじゃなくて……」と、恐る恐るたずねてみると……。
やっぱり、「マネージャーだけだよ。楽器はやってないし、歌ってない」との返事。
「なぜ自分は演奏しないのに、マネージャーを!」と、ものすごく驚いてしまいました。
「あれだけ、熱心に活動しているように見えたのは、なんだったのか」と思ったんです。
「Aさんは本当にイケメンなのに、やっていることがことごとく地味なのは、なぜなんだろう」と、改めて不思議に思ったできごとでした。
イケメンなのに地味な男のエピソード3.就職先は淡路島のたまねぎ農家
私がバイトを辞めてからも、共通の知り合いとの間で、Aさんの話題が出ることはありました。
私が社会人になったころに、「Aさんも就職したらしい」という噂が聞こえてきたんです。
私は、「おうちの事情は解決したのか」と、他人ごとながら安心していました。
決して能力が低いわけではなかったAさんですから、「きっといいところに就職したんだろう」と考えていたんです。
あれだけ容姿の整った人ですから、それを仕事に活かすこともできそうでした。
だけど、聞いたところによるとAさんの就職先はなんと、淡路島のたまねぎ農家だと言うんです。
もちろん、私もたまねぎは大好きですし、農業というのは人間の食を支える素晴らしいお仕事だと思います。
ただ、Aさんがあの茶髪をなびかせながら、畑を耕している様子がどうしてもイメージできなかったのです。
「容姿を使った仕事なら、いくらでもできそうなAさんなのに、選ぶ仕事まで地味なのか……」と、なんだか感動すら覚えてしまった話でした。
まとめ
私が実際に出会ったなかでは、一番といえるほどイケメンだったAさん。
やることなすことすべてが地味で、でもそのミスマッチさがおもしろくて、私は彼のことが大好きでした。
今はどうしているのかわかりませんが、「彼が彼らしく、好きなことをやれているといいな」と思います。