一生の宝物。聴覚障害を持った犬を育てたエピソード3編

ゴールデンレトリバー

32歳女性。

仕事の都合で、海外と日本を往復する毎日を送っています。

 

家族全員動物が大好きなので、子どものときから、譲り受けた犬や拾った猫に囲まれた毎日を過ごしてきました。

今は、自宅で、犬2匹に猫1匹と、一緒に生活しています。

 

 

聴覚障害を持った犬を育てたエピソード1.いつも元気だった愛犬が障害を持つまで

ゴールデンレトリバー

 

私の祖父母の家には、メリーというゴールデンレトリバーがいました。

メリーはとても頭がよく、人懐っこい反面、どこか神経質な部分がある犬でしたね。

 

メリーが5歳になったころ、祖父母のもとに新しい犬が仲間入りします。

メリーより3歳下で、2歳の秋田犬でした。

メリーをとても可愛いがっていた祖父母が、メリーと同じように、秋田犬も可愛がるようになったのです。

 

それが原因になったのかもしれません。

メリーは突然、一緒に生活をするようになった秋田犬に、ストレスを抱えるようになっていったんです。

 

最初は落ち着きがなくなり、突然吠えたり、爪で柱を引っかいたりしていました。

それから間もなくして、ご飯を食べなくなり、やせ細っていく様子が見てとれたのです。

 

祖父母は、何度もメリーを動物病院に連れて行き、診察をしてもらっていました。

ですが、とくに異常は見られず、「お薬を渡されて帰宅する」という繰り返し。

 

メリーの豹変ぶりを聞き、祖父母のもとに駆けつけた矢先、メリーが私たちの呼びかける声に、反応しなくなったのです。

そして、大きな動物病院に連れて行くと、ストレス性の聴覚障害ということが分かりました。

 

メリーは、新しい犬がきたことで、緊張状態が続き、ストレスをため込んでいたのです。

そのことによって脳が緊張し、血行が悪くなって、耳が聞こえなくなっていました。

 

神経質な性格とは分かっていましたが……。

まさか、耳が聞こえなくなるとは思わず、「メリーの気持ちを分かってあげられなかった」と、後悔した私。

 

ですが、ときはすでに遅く、「メリーの耳が、再び聞こえるようになることは厳しい」と、診断結果が出ました。

そして、「聴覚障害を患ったメリーを引き取れるのは、私しかいない」と、メリーと暮らす決意をしたのです。

 

聴覚障害を持った犬を育てたエピソード2.障害を持ってからの暮らし方

ゴールデンレトリバー

 

私は当時、友人数人と一軒家を借り、ルームシェアをしていました。

敷地も広く、自然豊かな場所で、そのなかには動物学校に行っている友人もいたので、メリーを飼うには最も適した場所です。

 

私がまずしたことは、メリーとスキンシップをとることでした。

「ご飯だよ」「おいで」と言っても、なかなか反応してくれないメリー。

 

そこで、まずジェスチャーサインをすることにしました。

「頭の良かったメリーには、ジェスチャーサインが一番通じやすいのかな」と考えたからです。

 

最初はまったく反応してくれず、すぐにそっぽを向いてしまいます。

ですが、何度も何度もジェスチャーサインの練習を行いました。

 

とりあえず、簡単なことで、ジェスチャーサインをすることにした私。

「ご飯の時間だよ」「トイレはココ」「賢いね」など、パターンを分けて、サインを考えるようにしました。

 

耳が聞こえなくなったメリーに、リードを引っ張って導くのは簡単なことですが、そうはしたくなかったのです。

「できるだけ、自発的に動いて欲しい」という思いがありました。

それに、再びメリーに音を取り戻して欲しかったので、たくさんコミュニケーションをとるようにしたのです。

 

メリーを飼うことになって、一番大変だったことが散歩です。

都会から離れた静かな場所に住んでいましたが、外に出ると、やはり車やバイクに遭遇します。

リードを引っ張っていても、音が聞こえないので、急に車のほうに飛び出したりと、間一髪だったことが何度もありました。

 

その都度、「危ない」とジェスチャーサインをします。

しかし、最初のうちはふてくされて、機嫌が悪くなるメリー。

 

メリーは機嫌が悪くなると、ご飯を食べる量が減ってしまいます。

なので、その都度なだめながら、もとあった体重に戻るよう、努めました。

 

 

聴覚障害を持った犬を育てたエピソード3.メリーが心を開いてくれるまで

泣いている女性

 

メリーと一緒に暮らすようになってから、「メリーと離れたい」と思ったことは、一度もありませんでした。

「世話のかかる子のほうが可愛い」というように、どんなことがあっても、メリーと一緒にいたかったのです。

 

最初は、祖父母から離れてしまったことが悲しかったようで……。

私に吠えたり、ときには噛んでくることもありました。

 

メリーの気持ちを代弁するとしたら、「早く、祖父母のもとに返して」と思っていたのでしょう。

ですが、日に日に私に懐いてくれるようになり、何度も伝えたジェスチャーサインを覚えてくれるまでに成長しました。

 

しばらくして、シェアハウスから、新しい場所で暮らすようになった私たち。

環境が変わったときでも、メリーはいつも私のそばに寄り添ってくれました。

 

かかりつけの動物病院に行くと、こう言われたことがあります。

「聴覚障害を持った犬を育てるのは大変だろうから、ボランティア施設に預けませんか?」と。

 

また、メリーと散歩をしていて声をかけてくれる方に、聴覚障害があることを伝えると、嫌な顔をして、去って行ったりする人も。

障害を持った動物には、さまざまな偏見があるのです。

 

メリーは最後まで聴覚をとり戻すことはできませんでしたが、私は、精一杯の愛情を注いだと思っています。

メリーは、10歳でこの世を去りましたが、去り際になるまで、私の手の平に、手を乗せる「握手」をずっとしてくれていました。

 

私のなかで、メリーと生活をした5年間は、一生の宝物です。

 

まとめ

世間では、聴覚障害を持った犬が存在することを知らない人が多いです。

そのため、突然自分の飼っているワンちゃんの耳が聞こえなくなってから、気付く方がほとんど。

 

なかには、そうなってから、手放す人もいるようです。

ですが、大切なのは、障害を持った犬が生活しやすいよう、環境を整えることではないでしょうか?

 

愛情をもって育てれば、「障害を持った犬を育てて良かった」と思う日が、必ずくるはずです。